日暮れ時の風と3つの仮説

[KOK 0034]

14 Jan 1997


新年早々のロマンティックネタ、 [kok0031]地震波と日暮れ時の風、でありましたが、なぞは、ますます深まるどころか解決しそうです。

まずは、襟裳岬とマダガスカルをフィールドに活躍中のイイダコくん。

島倉千代子が襟裳岬を次のように歌っています、「風はひゅるひゅる波はざんぶりこ」。実際、岬の突端では、季節や時刻に関わらず常時秒速5mくらいの風が吹いており、最大風速は毎日秒速10m以上、秒速20mを超えることも珍しくありません。ところが、いったん岬を後にした途端、それまで吹いていた風が嘘のように収まってしまいます。(中略)まあ、太平洋の風という風は、襟裳岬の一点で集まって山の上に上って消えていく、と言っても大きな間違いではありますまい。

もう一つ私がフィールドワークをしたのはインド洋の西端マダガスカルです(中略)。この地域では、風の動き方は実に特徴的です。午前中いかなる方向から風が吹いていようとも、午後は必ず西向きの風になるのです。この、風が変わる時刻を午前11時としましょう。すると、7時間ほど時差のある太平洋南部では、ちょうど日暮れ時の風が吹く時刻ではないですか!

これだけの事実から性急な結論を出すのは控えなければなりませんが、要するに、ある時刻になるとモザンビーク海峡以西(アフリカ大陸かもしれない)に風が起こり、マダガスカルの空気を押しながら太平洋南部に達し、最後は襟裳岬で昇天することになるわけです。まったく、天網恢々粗にして漏らさずというべきではありませんか。

ちょっと長くなりましたが。みずからのフィールド体験をフルに生かした見事な三段論法です。襟裳岬では風が消える→マダガスカルでは風が起こる→その時間は太平洋で日暮れ時の風が吹く時間とほぼおなじである∴よってすべての太平洋の日暮れ時の風は、マダガスカルで生じ、襟裳岬で消えるのである(四段あるやんけ)。

つぎに東京のサルサ氏

応用地球物理学士の私なのですが、ここでは、風についての思いつきを述べたい。風を定義づけるパラメータには、位置と強さ、向きと方向があると思います。この場合、太陽を追いかけているのは風の位置であり、これが秒速463mで移動しているわけです。しかしながら、位置と強さは無関係なので、極端な話、「無風地帯が強烈な速度で移動する」なんて想定もあり得るわけですね。

むつかちいぞー。強烈に移動する無風地帯ねえ、猛烈に感動する星飛雄馬みたいなもんかな。

整理するとイイダコくんサルサ氏は、風の速度と、風が吹く場所の速度を、わけて考えているわけですねぇ。つまりトコロテンのようなものを思ってください。トコロテンの速さは遅くても、後ろを押すと、奥の方はすこしおくれるけど、トコロテン全体でほぼ一斉に動くでしょ?だから「動き出す場所」が移動する速さは、理論的には無限大になるわけです。これを「トコロテン説」とよびましょう。

つづいて京都のテンちゃん

地表面は専ら輻射熱によってしか暖められないので、日が翳った瞬間から冷え始め、海から空気が流れ込んでくるので、太陽とともに動くようなすごい速度の風ではなく、その場で起こる風がふくのではないかとおもいましたが。私は物理はやっておらないので、物理関係の友達がおしえてくれたら私にも教えて下さい。

同じく北九州のポンポンくん

高校の地理の授業で海水と地面との温度差により風が吹くことを教わりました。地面は暖まり易く冷めやすい、一方海水は暖まりにくく冷めにくいので明け方は地面が先に暖まるので陸地の方が気圧が高くなり陸地から海に向けて風が吹きます。夕方はその逆で海から陸地に向けて風が吹くのです。風というのは大気の流れであり気圧の高いところから低いところへと流れるのです。ですから日没のときの風は敢えて言うなら海面上の最も気圧の高い地点で生まれて陸地の最も気圧の低い地点に消えて行くということです。

陸と山の温度差によって生じるいわゆる海風ですね。でも、一定時間吹いているいわゆる海風とちがって、日暮れ時の風は本当にサッとふく一陣の風なのです。

しかし局地的な海風かもしれません。ただ、ふたりとも海風の理解がまちがってるようです。陸が先に冷えるのはいいのですが、暖かい海ほうが上昇気流が強くなるから、地上風は吸いこまれるように陸から海にふくんです。(ちなみに相対的に暖かい空気は高気圧ではなく低気圧です)

日暮れ時の風は、たしかに陸から海にむかって吹くような気がます。ただし、いつも陸を背に海にしずむ夕日をみているので、一陣の風が、陸から海にむかって吹いているのか、太陽を追っているのか、区別がつきません。島の東岸部にいって調べれば検証可能ですね。これを「温度差説」とよびましょう。

最後、名古屋のユウちゃんです。

私の会社の部長は大変恐い人ですが、この人が近ずくと、どういう訳か一陣の風が吹きます。反応はさまざまで、私のように風を感じる者とか、背中に”ぞぞ”が走る者とかいろいろおります。社内では有名な謎です。

黄昏時はオウマの時間です。夕日が落ちたとたんあたりは急にまっくらになり、コウモリたちが怪しげにとびまわります。陸側の藪に暗い影がおり、背中の方が急に不安になります。そんなとき「ぞぞ」が走るのです。ユウちゃんところの部長といっしょだね。

これは、すなわち「心因説」でしょうな。

さて、以上「トコロテン説」「温度差説」「心因説」と3つの仮説がでました。こんど南の島にいくときは、ぜひ検証してみましょう。

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