06 Jul 1998
【語義】
しゃっくり[吃逆]
横隔膜の不時の収縮によって、空気が急に吸い込まれる時に発する特殊の音声。
さくり。しゃくり。「―が止らない」(広辞苑より)
■生理的現象の言語による表現は、ある文化の人間が、自らの身体をどのようなものと認識しているかに深く関わる。九州で初めて「しゃっくりがつく」という表現を聞いたときに、あたかも外部からやってきて自己の体の状態をかえてしまうような「しゃっくり」観に、新鮮な驚きを覚えた。
■当初、「しゃっくりがつく」の反対は「しゃっくりがおちる」であると考えたが、アンケートの結果、それは間違いで「しゃっくりがつく」という地方の人も「しゃっくりが止まる」ということがわかった。
■さらに、この「つく」という表現が果たして、狐憑きなどの「つく」なのか、あるいは調子づくなどの「つく」なのか、嘘をつくなどの「つく」なのかは、現時点では定かでない。ただ、アンケートの中で得られた「しゃっくり虫がつく」「しゃっくりがとりつく」などという表現が、このあたりの問題を考えるうえでヒントになるだろう。
■とりあえず今回は言葉の分布に注目し、さらに深い考察は、今後の課題として残したい。なにはともあれ、まずは集計結果をみることにしよう。
【質問】
しゃっくりが「つく」、しゃっくりが「おちる」と言うか?言わないならば
なんというか?ご自分の出身地と、あわせてお教えください。
【集計】(有効サンプル数104)
出る | 出す | する | なる | おきる | しゃっくり 虫がつく |
とりつく | つく | |
合計 | 75 | 2 | 10 | 2 | 2 | 1 | 1 | 11 |
北海道 | 1 | 1 | ||||||
宮城県 | 1 | |||||||
栃木県 | 1 | |||||||
埼玉県 | 2 | 1 | ||||||
東京都 | 1 | |||||||
岐阜県 | 1 | |||||||
愛知県 | 2 | 1 | 1 | |||||
滋賀県 | 1 | |||||||
福井県 | 1 | |||||||
和歌山県 | 1 | |||||||
大阪府 | 5 | |||||||
鳥取県 | 3 | |||||||
島根県 | 2 | 1 | ||||||
広島県 | 3 | 1 | ||||||
山口県 | 8 | 2 | 1 | |||||
香川県 | 1 | |||||||
愛媛県 | 1 | 2 | ||||||
大分県 | 1 | |||||||
熊本県 | 2 | 1 | ||||||
長崎県 | 3 | 1 | ||||||
宮崎県 | 2 | |||||||
鹿児島県 | 1 | |||||||
福岡県 | ||||||||
博多区 | 1 | |||||||
中央区 | 1 | 1 | ||||||
東区 | 1 | |||||||
西区 | 1 | |||||||
北九州市 | 15 | 2 | 1 | 1 | 1 | |||
古河市 | 1 | |||||||
大野城市 | 1 | |||||||
行橋市 | 1 | |||||||
直方市 | 1 | |||||||
飯塚市 | 1 | |||||||
筑紫野市 | 2 | |||||||
久留米市 | 3 | 1 | ||||||
柳川市 | 1 | |||||||
遠賀郡 | 1 | |||||||
嘉穂郡 | 1 | |||||||
宗像郡 | 1 | |||||||
鞍手郡 | 1 | |||||||
三潴郡 | 1 | |||||||
佐賀県 | ||||||||
佐賀市 | 1 | 1 | ||||||
伊万里市 | 1 | 1 | ||||||
杵島郡 | 1 |
【事例1】■「しゃっくりがつく」という表現が散見されるのは、佐賀県、福岡県の久留米地方、福岡市の中心部、愛媛県、香川県、広島県などである。面白いことにこの分布はそれぞれ局地的で、それらの地域の中間に位置する近隣の地域、たとえば北九州市や山口県では見られない。かつて広く分布していた言葉が各地に残存したのか、あるいは独自に発生したのか、いまのところ不明である。
私のところではしゃっくりは「つき」ます。
どこもそうだと思ってたんですけど、違うんですね。びっくりです。しかも、私はしゃっくりは「憑く」ものだと思ったのですが・・・。それは違うだろうけど。(佐賀県杵島郡)【事例2】
この件ですが博多っ子の私は何の違和感もなく「しゃっくりが『つく』」と言っています。例えば「しゃっくりがついたけん、背中ば叩いて」といったように使っています。【事例3】
「つく」はつかいますね。(例)「あーしゃっくりついちゃった、お茶お茶」 でも「おちる」は使いません。かわりに「止まる」を使います(福岡市中央区)。
【事例4】■なかでも事例4の北条市は、特異的で、ちょうど「うそをつく」と同じように、しゃっくりが目的語として登場する。
「しゃっくりをつく」と言います。(愛媛県北条市)
【事例5】■山口県の2例でも、「しゃっくりがでる」ではなく「しゃっくりをだす」となっている。しゃっくりは不随意な生理現象のはずなのに、これらの事例はどこか能動的なニュアンスを感じさせる。
私の地元では「つく」「おちる」などはつかいません。普通にしゃっくりを「出す」といいます(山口県下関)【事例6】
しゃっくりを「出す」といいます。(山口県大島郡)
【事例7】■こういう表現はもっとありそうだが、対馬の一例だけだった。ちょっと興味深い。
「おきる」「おさまる」という。 (長崎県対馬上対馬町)
【事例8】■こういうことをいうのは、やはり関西人である。
(集計から除外した)「しゃっくり」がはじまった時は「わっ!しゃっくりや!」といいます。ごめんなさい。出身は大阪です。
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