カミナリ落ちる?

[KOK 0161]

15 May 2001


「もし公園の花とか折ったら神様がおこってカミナリ落とす?」「幼稚園で知らなくて、友達が作ってた積み木を壊しちゃったけどカミナリ落ちないかなぁ」「きのうマッシュルーム残したからカミナリ落ちる?」「ほんとは、さっきうそついたけど、カミナリ落ちない?大丈夫?」

4歳の玄之介がこのごろ急にこんなことを言うようになった。なぜか知らないけど、カミナリがひどく怖いらしい。われわれがそんな話をして脅かした覚えはない。だが彼は実際、カミナリのことが気になって気になって仕方ないらしく、とても心配そうに尋ねる。

ぼくが冗談でも「カミナリ落ちるよ」なんていうと、とてもおびえる。いったい、どうしたのだろう?そんな絵本を読んだのかな?一ヶ月たってイギリスの生活のストレスが現れてきたのだろうか?幼稚園でなにか困っているのだろうか?あんまり頻繁にカミナリのことばかり言うからこちらも心配になる。「大丈夫、カミナリなんて落ちないから」といっても玄之介は安心できないらしい。

3日前の夜のことである。いつものように、子供たちを寝かしつけるために本を読んでいると、唐突に玄之介がいった。「あのね、イギリスではカミナリは夜中におちるんだよ」「えっ、夢の中で落ちるの?」「ううん、夢みたいだけど夢じゃないの、だってゲンノ起きてるもん」「なに?」「えっとね、カミナリは神様がおこって落とすんじゃないかなゴロゴローって」

そこまで聞いてやっと思い当たった。われわれの家は線路の近くにある。夜中にときどき長い貨物列車が通る。

イギリスに来てから、部屋とベッドの関係で子供たちは2人だけで2階で寝るようになった。4歳の玄之介にとってそれはとても不安な経験だったにちがいない。

「あれはね、カミナリの音ではなくて貨物列車の音なんだよ。貨物列車は客車のいない夜中にたくさん走るんだよ。貨物列車は、駅に止まる必要がないからとってもとっても長いんだ。」「うん、知ってるよ貨物列車、いつも見てるもん」

そういえば、幼稚園に行くときは毎日鉄橋の下をくぐるが、玄之介はこのごろそこを通るのをいやがっていた。カミナリの音と列車の音、なんとなく頭の中でそういうのがわかっていながら、夜な夜な聞く不思議な音に彼はおびえていたのだ。

そして、カミナリの音と列車の音が完全につながったとたん、翌日から彼は、カミナリの話をまったくしなくなった。

いったいなにが起きたのだろう。

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「インターシティはゴー」

夜中に鳴り響くゴロゴロという音を、彼は「神様の罰のカミナリ」として理解した。その理解は、実は彼の不安を反映させ顕在化したものだといえる。「長い貨物列車」であるという「科学的」で「合理的」な説明によって彼は非常に安心をした。しかし同時に、もともとの不安は、それによって抑圧され潜在化した。

彼の説明に宗教心の芽生えを感じた。世界を理解したいという気持ちは誰にでもある、そして、未知な物に対する不安も。こうした不安定な状況をどのようにして受け入れていくかという姿勢が、宗教と科学では大きく異なる。ぼくは子供たちに「合理的」な説明ばかりする。夢がないかもしれないけど、合理性の世界もそれはそれで深い。


鳥の孵化について兵庫の「ゆきさん」からメールをいただきました。

ニワトリは毎日1個産めればいいとこ、一度には産めません。
有性卵は生きていますが、常温では細胞分裂は始まらないようで、温めて始めて卵の内部が変化していくようです。と言う事は母鳥が「さぁ座りましょ」と暖め始めるのでいっせいに雛が(ニワトリでは2週間)かえるのです。たまに1日遅く孵るのもいましたが、ひ弱ですぐ死んでしまったと思います。


なるほど「暖めることによって細胞分裂が始まる」のか、教科書で読んだ記憶はないけど、家で鶏を飼っている人にとっては当たり前の話なんですね。

興味はさらに広がって、「それならどんなメカニズムで、温度の上昇が引き金になって発生が始まるのだろう」というところに移ります。

また、よく考えてみると、「どうして卵は暖めないと孵らないのだろう?」という疑問もでてきます。温度の差といってもせいぜい20度くらいのものです、発生の過程で物理的にどうしてもその温度が必要だとは思えません。暖めなくても孵るように進化してもよかったじゃないですか。 現に、爬虫類の卵なんて暖めなくても孵ります。

ツカツクリという鳥は地熱で卵を孵化させるといわれているけど、ソロモンでこの巣を実際に見てこの説明は「どうも怪しいぞ」と思った。ソロモンみたいなところだと、外気温の方が土の中よりよっぽど高いのだから。

どうして鳥は卵を暖めるのだろう?実は「卵を暖めないといけない」というのは口実で、本当は親鳥に卵を守らせるための機能だとか。発生を一斉におこなうための機能だとか、そんな理由なのだろうか。それにしても自然はわざわざ回りくどいことをさせます。

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Takekawa Daisuke