[KOK 0226] 06 Apr 2003 またのあいだから世界を眺めたら
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■1960年代にアフガニスタンで撮られた写真の展覧会を見に行った。厳しい自然の中で生きる人々。あどけない赤ちゃんの笑顔。この子は今ごろどうしているのだろう。彼の人生は世界の歴史に翻弄された続けたにちがいない。もしかしたら、もう生きてはいないかもしれない。でも写真の中の生まれたばかりの彼は、まだ自分の未来をなにも知らずに無邪気にほほえみ続けている。 ■ふと気づいた。そうか、もし生きていればこの赤ちゃんは、わたしとほとんど同じ年頃になっているのだ。時間が、頭の中でキュルキュルキュルと高速に巻き戻され、勢いあまってそのまま世界が転倒した。 ■ひっくり返ってまたのあいだからさかさまの世界を眺めたら不思議な景色が見えてきた。ブラウン管の反対側に自分をおいてみたら奇妙な気持ちになってきた。もし私たちが彼らだったら、もし彼らが私たちだったら、どうなるのだろう。 ■絶え間なく街に打ち込まれる砲弾。侵攻してくる世界最強の軍隊。神に祈りながら防空壕に身を隠す毎日。そんな中で、わたしはいったいどう生きればいいのだろう。空襲におびえるイラク市民。空襲におびえる日本市民。イラク兵におびえるアメリカ兵。アメリカ兵におびえるイラク兵。それもわたしかもしれない。 ■この戦争でアメリカはイラクを解放するの?それなら前の戦争でアメリカは日本を解放したってこと?そして戦争が終わればイラク人はアメリカに感謝する?日本人はアメリカに感謝したの?たしかに今や日本人はアメリカ大好きだけどね。同盟国?連帯保証人?アメリカはイラクにもディズニーランドを造ってくれるのかしら? ■邪悪な政権の息の根を止めるために、クラスター爆弾や劣化ウラン弾をイラク人の上に落とすの?それなら原爆を落としたのも日本人のためだった? ■アメリカが正義でイラクが悪?つまりかつての日本も悪だったってこと?独裁者フセイン、侵略者ヒロヒト、鬼畜米英のルーズベルトと帝国主義者ブッシュ?どれが嘘でどれが本当?いったいだれの言葉を信じたらいいの?だれを崇拝すればいいの?だれに命を捧げればいいの? ■イラクの兵隊はフセインを守っているの?それとも国を守っているの?それとも自分の家族を守っているの?日本の兵隊は天皇を守っていたの?それとも国を守っていたの?それとも自分の家族を守っていたの?でも、いったい、どうやって守るの?権力者や国がなにをしてくれるの? ■でもイラクの男ならアメリカと戦うべき?そして日本の男ならアメリカと戦うべきだった?それとも機に乗じて内乱を起こすべき?あくまで反戦を貫いて牢獄に送られるべき?裏切者と呼ばれるのは嫌だし、みすみす死ぬのも嫌。だったらアメリカの銃弾の前に我が身をさらすしかないよね?神の祝福を信じて、二階級特進の英霊となることを信じて、だれを守るというわけでもなく運命に従い粛々と戦場に向かうのかな。 ■じゃあアメリカの兵隊は、なにを守っているの?大統領?民主主義?それとも自由の国?世界の大量破壊兵器のほとんどを製造し所有している国なのに、なにをそんなにおびえているの?世界貿易センターを攻撃された?真珠湾を攻撃された?これ以上悪い夢を見たくない?それともやっぱり石油がほしいだけ?強さを誇示してみたいだけ?アメリカ兵だってひとりの時は死ぬのが嫌にちがいないのに。 ■アメリカ兵が配るチョコレートやガムに群がるこどもたち。ギブミーしてんか。あの日を境に日本でなにが起きたの?正義と悪ががひっくり返った日。神が人間になった日。戦争が平和になった日。でも、それならガマの中で焼け焦げた死になんの意味があったのだろう。石壁に写し込まれた死になんの意味があったのだろう。気の早い人はもう復興の話をしているけど、これからイラクではなにが起こるの?それはバスの中ではじけ散った死を償うことができるのだろうか? ■日々の新聞におどる言葉は、まるでさかさまの世界を映し出す呪文のよう。実際の出来事は一つなのに言葉を変えると景色も変わる。空爆と空襲。進攻と侵略。征服と解放。誤爆と殺戮。進駐と占領。玉砕と全滅。治安維持と思想統制。拉致と強制連行。特攻と自爆攻撃。聖戦とテロ。復興と統治。正義と悪。神と悪魔。偉大なる将軍様と畏れ多い天皇陛下。言葉を置き換えて記事を読んでみよう。 ■正しいことをしているというのなら、偽りの過去を直したいというなら、どうして口をふさごうとするのかな?どうして耳をふさごうとするのかな?勇ましい進軍にわくわくしてみたり、恐怖や無力感にさいなまれたりするかわりにまたのあいだからさかさまの世界を眺めてみてはどうだろう。「もし私たちが彼らだったら」なんて考えてみると、蜃気楼の向こうに自分の姿が見えてくるかもよ。それはどんな姿かな?怖いミサイルを撃ち込んでくるのはいったい誰かな?北朝鮮?アメリカ?それとも日本?ほらね人ごとのように戦争反対なんて言ってる場合じゃないかもよ。 |
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© TAKEKAWA Daisuke |