【狂73】最終解脱マシーン「勝利者」

95/4/21

■理解できない「他者」の存在はそれだけで恐怖ですね。

■オーム真理教では、近ごろはやりのマインドコントロールを使っていますから、昔の洗脳のように自我を破壊することなく、思想を変えることができるわけです。ですから、皆さんけっこうまともに自分の意見を言うことができますし。決して自分の考えが他人によって改造されたとは信じていないのです。

■ものの本によりますと、ふだんから精神的に不安定な人よりも、真面目で自我がしっかりしている人のほうが、マインドコントロールをおこないやすいといいます。マインドコントロールに特徴的なのは、新しい選択を常に「自分」が選んでいるのであると確信させながら、思想改造を進めていくという点にあります。

■マインドコントロールは、いぜんの狂電で少しふれた神経言語プログラミングという手法を用いますが、これ自体は、悪でも善でもなく、ようするにそれをどのように利用するかが問題になってくるわけです。じっさいマインドコントロールは脱洗脳や、心の不安を取り除くカウンセリングにも使われています。わこうどがつどい燃え盛る炎を見ながら闇深い夜をともにすごす楽しいキャンプファイヤーも、一種のマインドコントロールです。しかし一方で、自己開発セミナー、催眠商法ときには企業の新人研修などで悪用されているのも事実です。いわばマインドコントロールは両刃の剣といえるでしょう。

■さてところで、一連の毒ガス事件は、われわれにテロリズムの新しい方法論を提示しました。それは、「犯行声明をしない」ということです。これまでのテロはその行為よりも目的や声明を出すことにむしろ重点がおかれていました。しかし、今回の事件で、目的を明らかにせず犯行声明をしないテロは、より効果的に本来の趣旨を達成することができることがわかったのです。

■犯行声明をしない以上、当局は疑わしきものを、しらみつぶしに別件で捜査していくしかありません。組織全体が地下に潜る必要もないのでとても経済的です。犯行目的に関しては、マスコミがかわりに一生懸命考えて宣伝してくれます。

■同時に行為の責任者を明確にせず、組織の命令系統を曖昧にしておくことも大切です。近代西洋思想からうまれた現在の法体系は、最終的に「人格が確立した個人の行為」に対して適用されるものであり、個人の輪郭がはっきりしない組織を直接に取り締まることはできません。

■この事件が日本で最初におきたのは、実に象徴的であると思います。われわれは、オウム真理教徒という「他者」に対し、ちょうど50年前にアメリカ人が日本人に感じていた(今でも続いているかもしれないが)のと同じ性質の不可解さを感じているといえます。

■その不可解さの実態は、戦いに勝つという戦争の合理的目的から逸脱し「天皇陛下バンザーイ」と叫びながら自殺攻撃を繰り返す日本軍と、にもかかわらず天皇がその責任の中心にはいないという日本的社会システムです。近代西洋思想では、この不合理で脱論理的な構造を理解することはできません。ただひたすら鬼を見るような目で恐々と「彼らは狂っている」と叫ぶしかないのです。

■こんご、この事件がどのように進行するかは解りませんが、オウム真理教の一般教徒は最後まで麻原彰晃を信じかばいつづけるでしょう。それは今でも天皇に戦争責任がないと信じている多くの日本人の姿の二重映しでもあります。

【参考図書の一部】


スティーブン.ハッサン(著)浅見定雄(訳)
『マインドコントロールの恐怖』
恒友出版¥1500
ISBN-7652-3071-6
1993年4月30日初版

T.ギロビッチ(著)守 一雄・守 秀子(訳)
『人間この信じやすきもの』
新曜社¥2900
ISBN-7855-0448-0
1993年6月7日初版

リチャード・バンドラー(著)酒井一夫(訳)
『神経言語プログラミング』
東京図書¥1200
ISBN4-489-00184-3
1986年12月15日初版

二澤雅喜(著)
『人格改造!自己開発セミナー潜入体験記』
JICCブックレット¥450
ISBN4-88063-868-4
1990年3月26日

中島らも
『ガダラの豚』

五味川純平
『御前会議』
文春文庫¥480
ISBN4-16-711511-5
1984年8月25日


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