【狂99】南の島の満月の夜

95/8/31

■本土では新暦のお盆が一般的であるが、沖縄では旧暦のお盆がふつうである。

■新暦でも旧暦でも大した差がないように思えるのだが、両者はある意味で決定的に違う点がある。

■それはなにかというと「旧暦のお盆は必ず満月の夜である」ということである。旧暦は月齢をもとにした太陰暦だから15日が満月であるというのは、あたりまえなのだが、沖縄でお盆を過ごしてあらためてそれに気づかされた。

■今年は旧暦の閏年で、お盆は新暦の八月一三日にずれ込んだ。今回の沖縄行きは、まともにお盆のシーズンに重なっていた。お盆の三日間、私はちょうど竹富島に滞在していた。

■その日は沖縄各地でさまざまな行事が行われているのだが、竹富島でも夜になるとアンガマとよばれる集団(石垣島のアンガマとは異なっている)が、家々を訪問し三線の音に合わせて歌や踊りを披露するのであった。

■空は澄みわたり、月はどこまでも明るく夜をめぐって人々を煌々と照らし続けていた。南の島の満月の夜は特別である。昼間の熱い太陽光線が夕焼けとともに海の向こうに消え去ると、あたりはひんやりとした冷たい空気につつまれて、生き物たちが遊ぶ舞台が用意される。満月の夜は長い。歌と踊りは夜ふけまでつづく。

■そして、アンガマの最後にはモーヤといって、三線の乱れ弾きのなか人々が思い通りにまざりあい踊り遊ぶシーンが用意されている。見る人が見れば、おそらくその中に祖先の姿もあるはずだ。死者も生者も月明かりの下で時間を忘れて踊るのである。私も我を忘れて踊っていた。

■沖縄のお盆がかたくなに旧暦を守っているのは、その夜が満月でなければならないからなのである。南の島の満月は特別である。


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