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ニライタケ(Psilocybe cubensis)の栽培法概説

Ver.4.2
96/2/14
日本精神展開性菌類研究所


準備

まず、栽培のためにはフタ付きの大きな箱が必要である。濡れても平気な箱。衣装ケースなどがいい。後々、子実体形成には光が必要なので(半)透明の箱がいい。八百屋さんに頼んで発泡スチロールの箱をもらってくるのも良い。たいていの八百屋さんは気前がいいから箱のひとつやふたつはタダでくれるものである。魚屋さんの箱は臭いからダメ。不透明な箱の場合、フタを切り取って穴を空け、プラ板などで窓をはりつけると良い。

菌糸の成長には25〜30℃ぐらいの温度が、子実体の形成には20〜25℃ぐらいの温度が適している。したがって日本だと夏から秋にかけて徐々に気温が低下する時期に栽培するのがもっとも適している。逆にそれ以外の季節には人工的な温度調節が必要になる。温度はそんなに厳密に調整する必要はないが、温度計を用意して温度を監視する必要がある。

保温の方法としては、ホットカーペット、電気コタツの類を使うのが簡単。熱帯魚飼育用の温度センサー(ヒーターと別々になっているもの)を使うと温度調節が自動的にできる。電気毛布などの保温用器具をコントローラーにつなぎ、ビンに水を入れ、その中にセンサー部を突っ込んで培地といっしょに置いておく。小規模なビン栽培の場合は、センサーが一体になった小型の熱帯魚用ヒーターを使うともっと簡単。培養用の箱の中に直接水を入れ、その中に培養用のビンをつけておく。その水の中にセンサー付きヒーターを入れて水を温めればいいわけだ。ついでに魚を泳がせてしまうのもかわいくていいかもしれない。

なお、寒い季節に保温するのは容易だが、真夏に冷却するのは難しい。温度が低くても菌糸の成長速度が低下するだけで、氷点下にならない限り死ぬことはないが、逆に高温の場合、30℃を超えると菌糸の成長が阻害されはじめ、40℃で死滅する。また温度が高いと他の雑菌の増殖も加速するのでやっかい。部屋全体を冷房で冷やし続けるという方法もあるが、この方法はコストがかかりすぎる。連日真夏日が続くような時だけはとりあえず一時的に培地を冷蔵庫に入れて休眠させるのが無難だろう。

そのほか、ぜひ必要な道具として、滅菌用の圧力ナベがある。ふつうの料理用で良いが、できるだけ大きいものの方が一度にたくさんの培地を滅菌できて都合がよい。滅菌は普通のナベでもできるが、非常に時間がかかる(3日ぐらいかかる!)のでこれはあまりおすすめできない。圧力ナベなら30分かそこらだ。圧力ナベはいろいろな料理にも使えるので、持っていて損はない。煮豆とか。値段はディスカウントストアで探せば1万円もしない。圧力ナベには火にかけて使うタイプのものと、電気で加熱するタイプのものがある。電気タイプの方が割高だが、タイマーで時間をコントロールできるので空炊きでナベを焦がしてしまう心配がない。また作業時の滅菌用にはアルコールランプがあると便利かも。

一般的な消毒薬としては薬局で売っている手足食器等の消毒液(塩化ベンジルコニウムなど)や消毒用アルコール(70%エタノール)などを使う。ちいさな霧吹きみたいな入れ物に入れてしゅっしゅっとやると便利だが、引火しやすいものもあるのでその点は注意しよう。

また、服用時に量を正確にはかるためにも、0.2g程度まではかれるハカリが必要である。これは、自前で培地を作るとき、あるいは他のお料理などにも使えるので、少々値がはるが(1〜2万円程度)できれば持っておきたい。慣れてくればハカリなんか使わなくてもだいたい目で見て量の見当はつくようになるが。くわしくは続編・服用編を参照のこと。

アルコールランプ、フラスコ、棒温度計などの実験器具は「東急ハンズ」のようなお店に行けば入手できる。培養用の鳥のエサやオガクズなどは、ペットショップで購入できるが、これも「東急ハンズ」などでも扱っている。また薬品類は基本的に薬局で購入できる。店頭にない場合でも、注文すれば特殊なものでない限り取り寄せてもらえる。メタノールのような劇薬に指定されているものを買いに行くときは印鑑を忘れずに!

最後に、栽培の場所と作業時の服装であるが、できるだけホコリの立たない部屋を使うのが望ましい。たとえば、普段は誰も使わないような部屋があるとそれが一番いい。しかし現代日本の住宅事情ではそれは難しいかもしれない。もっとも、特別な作業(植え付けなど)をするときだけは特別な場所(たとえば風呂場)を使えば、それ以外、置いておくのは普通の部屋でも大丈夫である。

ビンに菌糸が回るまでは作業時の服装には十分注意をする必要がある。できるだけホコリが立たないような軽装で、頭には清潔なタオルをかぶり、半袖で作業する。そして肘から先はすべてエタノールなどで消毒する。使い捨ての極薄のゴム手袋をするとなお良い。毛深くて悩んでいる人はこのさい肘から先の体毛を除去すれば完璧である。化粧品屋さんに行って相談してみよう。また、栽培を修行と心得て、これを機に頭を丸めてしまっても良い。その後収穫されたキノコを食べて瞑想するときや、ある種の音楽を聴きながら踊るときには、スキンヘッドだとカッコイイかもしれないが、これはあくまでも個人の好みである。

風呂場で作業するような場合は、思い切って全裸になってしまえば気楽である。ただしこの場合も頬かむりとマスクは必ずすること。なお、刺激性の薬物や熱い液体が飛び散るような危険性がある場合は、メガネを着用すると目の保護になる。まるで往年の過激派学生のようなスタイルであるが、まさに精神展開性菌類を栽培するという行為もまた革命的な活動であるということは肝に銘じておこう。

シャーレ培養(胞子から菌糸へ)

胞子から培養をはじめる場合は、まずシャーレの培地で菌糸を発芽させる。

準備としては、培養用の箱の内面を消毒液で十分拭いておく。なお子実体の発生までは光の条件はどうでもいい。培養用のシャーレは出来合いの滅菌済みプラシャーレか、ガラスシャーレを滅菌したものを使う。ちょっともったいないような気がするが、使い捨てのプラスチックシャーレを使った方が手間はかからない。このようなシャーレはしかるべき業者に注文すれば大量にまとめて購入できる。

培養液としてはPDA(ポテト寒天培地)とMYA(麦芽寒天培地)などが一般的である。どちらかというとMYAのほうが培養には適しているといわれている。培地の素もしかるべき業者から購入できる。たとえば極東製薬の「マルツ寒天培地」などが良い。自前で作るならPDAの方が簡単である。300mlの湯に対して、

 皮付きジャガイモ 100g(皮付きというのがミソだ)
 ブドウ糖      3g
 寒天        5g
 イースト     0.5g

を溶かして作る。ブドウ糖は薬局などで購入できるが、面倒ならかわりにショ糖(ふつうのお砂糖)でもよく、またイーストは入れなくてもいい。pHは6-7が望ましいが、そんなに気にしなくてもいい。ジャガイモは皮をむかずに細かく刻んで充分柔らかく煮込み、すりつぶしてよくかき混ぜた上で、目の粗い網などで濾した汁に、その他の材料を溶かす。残りカスのイモはサラダにでもして食べてしまおう。

つぎに滅菌。培養液はフラスコに入れて綿で栓をし、さらにアルミホイルでふたをする。フラスコがなければ口の細い普通のビンでもかまわない。湯に浸けて滅菌する場合は、沸騰した湯がアルミのふたの隙間からフラスコ内に入らないように、水位は十分低めにする。ただ少なすぎると空炊きになるのでこれも要注意。

培養液の滅菌は120℃で30-60分。温度をこれ以上に上げると糖分が変質するおそれがある。炭化した糖分は菌糸の生育に悪影響を及ぼす。突然変異を誘発することもあるらしい。

なお、培養にガラスシャーレを使う場合も、同様に湯でゆでて滅菌する。ゆで上がったガラスシャーレは、アルコールランプやバーナーであぶるとすぐ乾く。ただし同じ場所を偏って加熱し続けると爆発的に破損することがあるのできわめて危険。要注意。

滅菌済みの培養液は冷えて固まらないうちに分注をすませる。ビンを素手で触るとまだ熱すぎるぐらいの段階で。ゴム手袋をはめたり、フラスコに布を巻いたりすれば少々熱くても我慢できる。培養液のシャーレへの分注はすばやく行う。シャーレも、ビンも、フタを開けている間にカビの胞子が侵入しやすいので、フタを開ける角度、時間は最小限にする。ただしフタをし終われば汚染はそう気にしなくても良い。培地はまとめてたくさんつくっておくと後の追加ややり直しの時に使える。(とくにはじめての場合は必ず1回は失敗するものと覚悟しておこう。)テープで蓋を止め、ラップでくるんで箱に入れ、冷蔵庫(2-5℃)で保存する。それでも何カ月も置いておくとひからびてしまうようだが。

胞子の植え付けは培地が固まったらすぐ行う。滅菌したメスのようなものであらかじめ用意した胞子をほんの少しかき取り、培地全体に傷を付けるようにしてこすりつける。作った培地を数日置いておいてカビに汚染されていないかどうかチェックして、汚染されていないものだけを使うという方法もあるが、胞子さえ十分にあれば、このさい培地を多めに作り、とにかく早めに菌糸を植え、カビに汚染されたものは容赦なく捨てるという方針のほうが現実的である。非・実験室条件では、大部分がカビにやられると覚悟しておいた方がいい。たとえ生育環境がベストであっても、もとの胞子自体にカビの胞子が混入している可能性が高いのだ。

胞子を植えた培地は30℃、24-36時間(ウシの消化管の環境)で休眠を打破すると発芽が促進される。ただしこの過程は絶対に必要なものではない。とにかく順調にいけば菌糸は1〜2週間で発芽する。

その後の菌糸の培養温度は25℃前後がよい。菌糸発育の最速温度は30℃だが、温度が高いと他のカビ類の生長速度も速くなるので時間があるなら温度は低めの方が良い。しかも30℃を超えると菌糸の生育に悪影響が出始め、40℃では完全に死滅するので、温度調節が不安定な場合には、設定温度はどちらかといえば低めにしておくほうが無難である。温度が低いと発育の速度が低下するが、氷点下にならない限りは菌糸が死ぬことはない。

たいていのカビや細菌類は、発生の初期の段階ですみやかに発生箇所の周囲を培地ごとメスで切って捨てれば除去できることが多い。邪悪な腫瘍と同じようなもので、早期発見、早期切除が肝要である。ただしアカパンカビは強力なので発見し次第すぐに培地すべてを放棄しないと、周囲のシャーレにまで転移する可能性があると言われている。ときどきシャーレの裏側から培地を光に透かして見るとカビの発生を早期発見できる。

問題はニライタケの菌糸とカビの菌糸の見分け方である。キノコの菌糸は純白の綿状ないしより糸状(同種内でも形態には個体差が大きい)で、時に薄い青緑色を帯びることもある。傷が付いたり、他のカビにやられて死にかけた部分は暗い青緑色になるが、しかしこの青色と、たとえばアオカビの青とは一寸慣れればすぐ見分けられるようなものだ。カビの菌糸も初めは白いが、ほとんどの場合、胞子に色があるので胞子を形成した段階で区別ができる。コンタミナントとしては青緑色の胞子をつくるアオカビの類がもっともポピュラーである。白い胞子を作るカビもあるが、それでも胞子ができた段階でキノコの菌糸からは区別できる。その他、イーストや細菌類で、培地の表面にどろーっとした粘液状のコロニーをつくるものもあるが、これは菌糸とはすぐに区別がつく。

その他の見分け方。 1、キノコの菌糸はキノコくさいが、カビはカビくさい。なお、カビの胞子を直接吸い込まないように、匂いを確かめる場合にもマスクをした方がよい。 2、シロシビン系キノコの場合、菌糸に傷を付けると、しばらくして傷の付いた部分がところどころ暗い青緑色になる。(ビン栽培の時は少し激しく振り混ぜてみればよい。)これがもっとも簡単で確かな方法である。 3、500倍程度の顕微鏡があれば、菌糸の細胞のつなぎ目にキノコ菌糸特有の「クランプ」が認められる。これを確認するのは最も確実な方法だが、面倒くさい。 4、最後の手段として、十分な量の菌糸があれば、食べてみて薬理効果を確かめるという手もある。が、これは相当量がないとわからないし、毒のあるカビを食べてしまう危険性もあるのでおすすめできない。そもそも、全部食べてしまったりしては元も子もない。

さて、菌糸の発生が確認できたらある程度まで生長させ、カビにやられていない部分を切り取って、さらにたくさんの培地に移植して純粋な菌糸の培地を量産する。綿状の菌糸よりもタコ糸状の菌糸の方がクオリティが高いのでそのとくにような部分を選んで増やす。10〜20日ぐらいたって菌糸が培地の3/4程度を被ったところで、ビンへの植え付けに入る。菌糸は先端部分が活きがいいのだが、コンタミナント(カビなどの汚染菌)はシャーレの外側から侵入するので、菌糸の先端がシャーレの端まで行き着く前が良い。

純粋な菌糸を単離したシャーレは、フタをテープで止め、乾燥しないようにラップで包んで、冷蔵庫で保存することができる。うっかり上から水などがかかっても大丈夫なように、ちゃんと箱に入れておこう。

穀物栽培

確立された菌糸は、さらにビンに移して増殖させ、子実体を発生させる。菌糸増殖用ビンは500ml前後の広口ビンが適している。ジャムや蜂蜜のビンでよい。どちらかというと背の低い横長型がよい。大きすぎると扱いが困難になる。そもそも圧力ナベに入る大きさでないと滅菌できない。また口が狭すぎるものはキノコの発生には適さない。(キノコがビンの内側に生えてしまうと厄介なのだ。)フタも同時に滅菌するので、高温に耐えるように、フタはガラスか金属、または耐熱性樹脂のもの。

栽培用の穀物はいろいろ可能だが、ハトの餌(いろいろな種子の混合)が最適。ほかにヒマワリの種、麻の種、アワの種、玄米など。しかし種子が小さすぎると振り混ぜるのが困難になる。またヒマワリの種は内部まで水分を浸透させるのが難しく、また菌糸が内部に充分に入り込むのも難しいようである。

タネをビンの1/4-1/3程度入れる。ゆでるとこれが倍以上に膨れるので、多く入れすぎないように。水(水道水でよい)はそれと同量ぐらい入れる。(ヒマワリのタネの場合は少な目に。)pHはそのままでは酸性になりがち(コンタミナントの発育に好条件)なので、石灰(鳥の餌用のカキの殻がよい。園芸用の消石灰でも可。)を1ビンあたり小サジ1/2程度加えると完璧。ただし消石灰の場合は入れすぎないように注意。アルカリ性になりすぎると菌糸は生育できない。

ビンの滅菌はフタごと行う。ただしフタは密閉せず、少しだけゆるめ、蒸気の逃げ道をつくること。滅菌時間は40-60分。タネが大きい場合はそれに応じてタネの内部まで滅菌するためにすこし長めに行う。圧力釜はゆっくり加熱すること。冷たいガラスを急に加熱すると割れるおそれがある。

滅菌後は、容器が冷め切らないうちに容器のフタをしっかりして、逆さまにして中身の種子をガンガン振り混ぜてほぐすこと。そうしないと培地が小倉ヨウカンのように固まってしまう。それからまたフタを少しゆるめる。手袋をして作業をすると多少熱くても大丈夫。

寒天培地からの菌糸の植え付けは穀物培地が充分に冷めてから(30℃以下)行うこと。温度が高いと菌が死滅する。植え付けは、培地から1〜5・程度の菌糸を切り取り、さらにそれをすばやく数個に切り分け、ビンに入れ、軽く振り混ぜる。あまり激しく振って寒天がビンの壁に張り付いてしまわないように注意。シャーレの周辺ほど汚染されている可能性が高いので、菌糸はあまり周辺部分からはとらないこと。

その後の栽培では、ビンのフタを少しゆるめて酸素の供給が止まらないようにする。こうするとカビに汚染される可能性も高まるが、完全に密閉すると酸欠でキノコの菌糸が発育困難になるばかりか、嫌気性のバクテリアが増殖しやすくなる。

3〜4日で菌糸が寒天から鳥の餌の方に移っていくので、その後は2〜3日おきに振り混ぜて菌糸が早く全体に行きわたるようにする。ここで菌糸の生育が止まった場合、培地がバクテリアに汚染されている可能性が高い。バクテリアに汚染されたタネは、空けてみると酸っぱい匂いがするのでわかる。

培養温度はシャーレ栽培同様、25℃前後がよい。10〜20日で菌糸は穀物培地全体に広がる。この速度は温度によって大きく異なる。

ビンに充分菌糸が回ったら、そこに直接覆土して子実体を発生させることができる(ビン1本あたりトリップ数回程度の収穫が見込まれる)が、大量に発生させるためにはさらにオガクズや堆肥に菌糸を移植して増殖させる。なお、いったんビン培地に菌糸が回ったら、後はビンからビンへ菌糸の回ったネタをスプーンですくって移植し、どんどん菌糸を増やせる。これは堆肥栽培のネタとしても使える。

複数のビンに菌糸が回ったら、1本は保存用として冷蔵庫に入れておこう。そうすればいつでもそれをタネ菌として使える。オガクズや堆肥栽培のタネ菌としては、いったん試験管に菌を回すという方法もある。これだと汚染の可能性は下がるが、穀物を振り混ぜるのが難しい(固まってしまう)ので、試験管全体に菌糸を回すのには25℃以上でも1ヶ月近くかかる。

オガクズ栽培

オガクズ栽培はキノコの促成栽培の標準的な方法である。広葉樹のオガクズに米ヌカを加えた培地で子実体を発生させる。

広葉樹のオガクズはどんなものでもいいが、たとえばカブトムシ飼育用などの目的で売っているクヌギのオガクズなどが容易に入手できる。ネズミやウサギの飼育用に売っている針葉樹のオガクズはヤニの含有量が多く、十分にヤニ抜きをしてからでないとキノコ栽培には適さない。

オガクズだけでは栄養分が不足するので、これに米ヌカを加える。米ヌカはできるだけ新鮮なものが良い。スーパーで売っているものには古いものが少なくないので、できれば専門の米屋さんで購入するのがよい。培地はオガクズと米ヌカを10:1ぐらいの割合で混合したものに、水を加えてつくる。水分量は、混合物を手でぎゅっとにぎって水が少ししたたる程度に調整する。手形がはっきり残るようでは乾きすぎである。

この混合オガクズを、穀物栽培の時と同様にビンに詰め、ビンのフタを少しゆるめて蒸気の逃げ道を作った上で、圧力ナベ(120℃)で40〜50分滅菌する。滅菌後培地が十分に冷めたらビンの真ん中に消毒した棒で直径1cm程度の穴をあけてそこにタネ菌を詰め込む。上からカビなどの胞子が入ってきても大丈夫なように、培地の表面もタネ菌で被う。後は穀物栽培と同様に、ビンのフタを少しゆるめた状態でほこりのかからない場所(箱の中など)に置いて10日から1ヶ月もすれば菌糸が蔓延する。

オガクズ栽培は穀物栽培に比べて大量生産が可能で、また雑菌による汚染にも強い点ですぐれている。ビン栽培だけでなく、もっと大規模な栽培を行うことが可能である。オガクズ・米ヌカ混合培地を、ビンに入れず、直接圧力ナベいっぱいに入れてまとめて滅菌し、余分な水分を搾り取った後、ビニール袋や箱につめて使うと子実体の量産が可能になる。個人的な室内栽培の場合は、スーパーでもらえる買い物袋が便利である。袋はとくに滅菌する必要もなく、中に滅菌済みのオガクズ培地とタネ菌の混合物をつめ、手さげの部分をしばっておけば、水分が逃げない程度の通気性は保てる。この袋を箱に入れてフタをしておけばホコリから培地を守ることができる。このような大ざっぱな方法では雑菌が混入する確率も高まるが、汚染に関しては穀物栽培ほど気にしなくていい。

なお、ヌカを使った栽培を室内でやると、部屋がヌカミソ臭くなって困ってしまうことがあるが、ペット用などの脱臭剤を置いておくとかなり効果がある。

堆肥栽培

シビレタケ類は腐生菌なので、堆肥で栽培するとさらに効率よく大量生産が可能となる。堆肥から発生する子実体は穀物栽培よりもはるかに大きく、色つやもいい。堆肥としてもっともすぐれているのは、同じ腐生菌であるツクリタケ用の堆肥である。しかしながらツクリタケ用堆肥は専門の業者から購入しなければならず、個人では入手は難しい。(専門業者の多くはケチらしい。)堆肥としては、そのほかに園芸用の堆肥や、牛糞、腐葉土なども使えるが、一般に園芸用の市販品は分解が進みすぎており、完全に従属栄養である菌類の栽培にはあまり適さない。

完全なものを作るのは難しいが、堆肥を自作する方法もある。堆肥を作るためには発酵のための菌が必要だが、最近は生ゴミから堆肥を作る目的で流通しているEM菌が入手しやすい。

堆肥の材料はオガクズ栽培に使う広葉樹のオガクズの他、米のワラ、牧草、落ち葉などいろいろ工夫することが可能だ。培地の作り方はオガクズ栽培のときと同様である。すなわち10%程度の新鮮な米ヌカを加えたオガクズなどの原料に水を加え、やはり120℃で40〜50分程度滅菌する。そして余分な水分を搾り取った上で、発酵用の菌を加えて熟成させる。なお、市販のEM菌の中にはあらかじめ米ヌカに混じっているものもあるので、その場合は最初に加える米ヌカの量を減らして調節する。

こうしてできた原料は、やはりビニール袋などに入れて直射日光の当たらない場所で熟成させる。EMは嫌気性なので、袋からはできるだけ空気を追い出して密閉しなければならない。熟成期間は夏場で10日、冬場で半月ぐらいである。

自作のものも、市販のものも、堆肥は滅菌の必要はない。むしろ自作の場合、EM菌が生きているまま使用した方がカビなどが侵入しにくいという説もある。ここに穀物栽培でできたタネ菌スプーン数杯分を混ぜて、通気を良くして菌糸が回るの待つ。なお堆肥が発酵して発熱するので、温度が上がりすぎないように注意する。

覆土と子実体形成

ビンまたは袋全体に菌糸が回ったら、さらに1〜2日待って菌糸を十分に行きわたらせた後、覆土をする。覆土は園芸用のピートモスを使う。バーミキュライトをピートモスの半分ぐらいの分量混ぜると通気性が良くなって良い。またpHのバッファとしてビン栽培のときと同様、石灰を少々加えると完璧である。覆土はビンなどにつめ、 水に浸けて圧力ナベで30分程度滅菌する。必ずしも滅菌する必要はないが、滅菌しない覆土を使うとカビが発生する確率が高まる。滅菌後十分に冷めたら手でにぎって水を切って使う。水分含有量は、手でぎゅっとにぎって水が少ししたたる程度、というのはいつもの鉄則。

覆土の厚さは1〜2cmぐらいにする。覆土に菌糸を回す段階では、光はあまり当てない方が良い(子実体形成時の光刺激を効果的にするため)。5〜10日ぐらいで覆土にも菌糸が回る。ただし菌糸はまんべんなくは回らない。とくに端の方に偏って広がってくるが、これはある程度は仕方がない。どうしても目に余るようなら、清潔な棒で覆土をすこしかき混ぜて菌糸を均等にしよう。

さて子実体形成には多量の酸素が必要であり、また子実体発生のじゃまにならないよう、覆土に菌糸が充分に回ったらビンのフタを開ける。買い物袋栽培の場合は余分な部分をハサミで切り取ってしまえばいい。またビンや袋を入れておく箱には通気用の穴をいくつか開けるか、まあ、フタを半開きにしておく程度でいいだろう。ただし覆土が乾燥してしまわないように、毎日霧吹きで水分を補給してやる。しばらく家を留守にするとか、毎日なんてやってられないという多忙な方には、超音波蒸気発生器がいいかもしれない。もっとも、栽培用の箱全体に水を張って栽培している場合は、それほど乾燥には気を使わなくてもいいかも。

この、子実体を形成させるときは菌糸をびっくりさせるために温度を急に低め(20℃ぐらい)に下げる。また光の日周リズムを与えることが重要である。もっとも簡単なのは夜使わない(電気をつけない)部屋の窓際に置いておくことである。屋外でもいいが、外に置いておくと往々にしてハエの幼虫などの虫に喰われてしまうものだ。また直射日光に当てるのもあまりよくない。屋内の場合は夜間に電気の光をあてないように注意する。夜電気をつけるときだけ、箱の上にフトンか何かかぶせて光が当たらないようにしてやるだけでもなんとかなるだろう。押入などの暗い場所に入れてしまうのもいい。タイマーで半日だけ電灯で照らすような本格的な設備を作ってしまえばずっと入れっぱなしでいい。

ふたを開けてから10日ぐらいで子実体が発生する。はじめは菌糸のところどころに白いツブツブ(pinhead)が現れ、それが成長して薄茶色の球状になり(primodia)、下から柄も伸びてくる。このまるいのが大きくなりながら、だんだん下の方から開いてくる。カサが開ききってしまう直前が収穫期。それより遅くなって子実体が胞子をまき散らすと、続く子実体の発生を阻害する恐れがある。子実体の発生は10日おきぐらいにピークが波状にやってくる。この「フラッシュ」はだいたい3〜4回繰り返される。最後の方になるほど、だんだん小さいのがちょっとしか出なくなってくる。

子実体の大きさや色は栽培の条件によって大きく異なる。一般にビン栽培のものは小型(5〜10cm程度)で色白であるが、堆肥栽培のものは大型(約10〜15cm)で色も濃い。ただし単位重量あたりのシロシビン含有量はビン由来のものの方が若干高いといわれている。なお、カサの大きさに比べて柄がモヤシのように長くなるのは酸欠、またカサにひび割れが生じてうまく開かないのは乾燥しすぎの兆候である。しっかり面倒を見てやろう。

子実体の乾燥と保存

収穫した子実体はすみやかに食べてしまうか、そうでなければ乾燥して保存する。(なお、食べ方についてはここでは触れないが、充分な準備が必要である。)

収穫した子実体はカサと柄の部分を切り離し、使い捨てカイロや電気コタツ、ホットカーペットなどを50℃ぐらいに保ち、その上に1〜2日置いておくとほぼ完全に乾燥する。柄がすごく太い場合には半分ぐらいに割いてもいい。しかしあまり細かくしすぎないこと。水と酸素が共存するとシロシビンは分解してしまう。青くなっているのがその証拠。

もちろん日光で乾燥させることもできるし、ほかに100W程度の電球やごく弱い火、温風ヒーターの風の出口なども使える。ただ、熱を加えるのはあまりよくないので、温度は60℃を超えないようにする。なお、加熱乾燥は仕上げの補助程度にして、ある程度まで乾燥剤で常温乾燥させる方法もある。押入用乾燥剤(ドライペットなど)を開けて、中にティッシュでくるんだ子実体を入れて再密閉すれば、やや時間はかかるが、かなりの程度水分をとることができる。この場合、乾燥剤とティッシュペーパーが直接接触しないようにすること。(乾燥剤が水分を吸って潮解する(びちょびちょになる)ため。)

完全に乾燥した子実体はカリカリで、力を加えるとポッキリ折れる。子実体の水分含有量は約90%だから、乾燥前に予め重さをはかっておくと乾燥の目安になる。たとえば、5gのキノコが0.5gになったら、乾燥完了というわけだ。

乾燥した子実体は小さく砕いてフィルムケースなどの密閉できる容器に小分けしてつめる。できるだけ酸素に触れないようにするため、余った空間には綿をきつくつめて、フタをして密閉し、冷凍室で保存する。約半年から1年は効力が持続するらしい。

なお、子実体から胞子をとっておくと長期保存ができる。子実体のカサの部分を切り取り、清潔な薬包紙かスライドガラスの上に置き、さらに上からシャーレなどでフタをしてまる1日も置いておけば、胞子が下に落ちる。プラスチックの板は静電気を帯びるので不適である。余計なホコリをかぶらないように、全体を箱の中で行うほうが良い。

参考文献

京堂健 1992  マジック・マッシュルーム 第三書館
大海淳 1992  日曜日の遊び方 はじめてのきのこ栽培 雄鶏社
Oss, O. T., and O. N. Oeric 1986 Psilocybin: Magic Mushroom Grower's Guide. Berkeley: Lux Natura.
Stamets, Paul, and J. S. Chilton 1983 The Mushroom Cultivator: A Practical Guide to Growing Mushrooms at Home. Olympia: Agarikon Press.
Stevens, Jule, and Rich Gee 1977 How to Identify and Grow Psilocybin Mushrooms. Seattle: Sun Magic Publishing.

※2002/5/7に、「麻薬、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令」が交付され、同年6/6から「マジックマッシュルーム」が麻薬原料植物として法規制されることが決定しました。したがって現在日本国内ではニライタケを所持・栽培・採集・節食することはできません。


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