北九州についてさらに深く

【狂153】

96/04/07


4月5日11時。第一次慰問団がやって来た。長野からモモチャ、名古屋からヒデサンだ。モモチャは前の晩に長野をでて夜行を使ってきたという。わたしが「いやーほんとに遠路はるばる・・・」というと、モモチャは「いや、まあ今までの2倍になっただけだから」とさわやかに言い放った。いっぽう、名古屋から6時49分発の新幹線でやってきたヒデサンは、「今までの3倍以上じゃぁ」とちょっと疲れておった。

さて、細かい話は省こう。結論から先に言う。この二日でいっきに小倉というのは、なかなかに奥深いところであるという確信をもった。わたしはこのところ、うしろむきの毎日で、なにもない家と、大学を往復していただけだったので、小倉の町の実体をまだほとんど知らなかったである。

まずもってわれわれの高い評価を得たのは、旦過市場である。ソウルの南大門市場とまではいわないまでも、沖縄の公設市場に匹敵するような、ワイルドで活気に満ちたバザールである。旦過とかいて「たんが」とよむ。きたないどぶ川(名称不明)のうらにぎっしり並び立つ店々の風情は、ここが香港だといわれても、すぐに納得してしまうような迫力だ。

われわれは驚喜のあまり、昨日の夕方と今日の昼間と夕方の三回も通ってしまった(ほかに知ってるところが少ないせいもあるが)。夜となく昼となく現れる変な男三人連れは、すでに、市場のおばさんたちの注目のまとである。北九州市の広報では、旦過市場は全国に知られた市場である、と書いてあったが、少なくともわたしが住んでいた全国では、まったく聞いたことがなかった。この際、狂電でも大いに支援していきたいとこう思うしだいである(おおきなおせわか)。

旦過市場のおばさんに小倉の花見スポットをきくと、「そりゃ、小倉城っち」といった。小倉にも城があるのだ。城はすぐ近くであった。小倉城はまるで街のオアシスのように満開の桜をのせて浮かびあがっていた。街の人々は手に手に酒と肴をもって城の高台に集まるのだ。コンパクトで的確な花見であった。なによりかっこいいのは、そこが天守閣の真下なのである。やがて、一六夜(いざよい)の月もでて、あたりは幻想的な雰囲気につつまれた。小倉の花見は上品である。

絶好の桜月夜(さくらづくよ)である、「こよひ逢ふひとみな美しき」なのである。じっさいに北九州には美しい人が多いとわたしは思った。「いいよぅ、こっちはレベル高いっすよ、ははは」(ばか)。

先を急ごう。二日目のイベントは、「歩いて本州にいこう!」である。われわれは、レトロに粉飾された門司港駅にむかった。レトロといってもまあ、函館や長崎にあるような羊羹おっと洋館がそのへんにたっているだけなのである。今日がデートであるならともかく、いまやまさに本州に向かわん、というわれわれにとって、門司港付近のレトロアイテムなどどうでもよかった。

海流渦巻く関門海峡をのぞむ和布刈(めかり)公園のしたには、あやしげな建物があり、その建物の壁についているボタンを押すと、まるでモーゼの奇跡のように、みるみるうちに海がざざざとふたつに割れ、「いざゆかん下関の地へ」とみちびくのである。そんなわけない。ボタンを押すと、そこからいっきに、地下55メートルの地底に下降するエレベータの扉が開くのである。関門トンネルの車道の下には、人道トンネルがついている。その全長は780メートル。そこは一種異様な空間である。

道はまっすぐにのびている。まるで宇宙ステーションの中のようだ。道のまわりにはいつわりの木々がたちならび、いつわりの鳥たちが鳴きかわしている。むこうから歩いてくるのは、いつわりの人間かそれとも本物か?なぜだかしらないがトンネルは微妙に揺れ動き、不気味な浮遊感を漂わせている。とっても変である。こんな変な場所がこの法治国家に許されていいのだろうか。

トンネルを歩くわれわれに、ジョギングをしているおじさんが追いついてきた。地底50メートルの高圧下におけるトレーニングは、おじさんの身体に、おそらく絶大な効果をあらわすのであろう。まことに、信じがたき光景であった。ときおり自転車も走り抜けていく。日常感覚からきりはなされた奇妙な一期一会である。わたしは、この海峡くぐりがやみつきになりそうである。

以上のように、北九州には、奥の深いスポットが目白押しである。しかし、われわれはまだ、八幡も若松も戸畑もいっていない。このさき福岡・博多あたりまで足をのばしたらどうなるやもしれぬ。さらに、海の向こうには釜山が待っている。小倉と門司と下関だけですべてがわかった気になっていては、大間違いのこんこんちきなのである。本州地方の人々には、今後、二弾三弾の慰問団の派遣を強く要請したい。

それではヒデサンとモモチャの感想である。


ヒデサン

はじめて小倉へ足を踏み入れてみると、ここがかなり穴場的スポットに満ちた土地であることがわかりました。懐かしくも活気に満ちた旦過市場のおねーさん達の呼び込みの声にはじまり、不思議な酩酊感におそわれる関門海峡地下トンネルまで、あなたもぜひ一度体験してみてください。感激すること請け合いです。さあみなさんも新たなるスポット発掘の旅へでかけよう。すっかり小倉観光局員になったヒデサンでした。


モモチャ

小倉の街は、道行くおねーさんになかなか僕好みの娘が多くてよかったっす。こだわりのある本屋もあるし、門司港はレトロが幅を利かせてるし、旦過市場は活気に満ちているし、暮らすにはとても面白そうでいいですね。

ちなみに昨日は選抜高校野球で鹿児島実業が優勝したのですが、小倉駅前に「九州勢として29年ぶりの優勝」と新聞の号外がべたべたと貼られ、列車の中でも号外を読んでいる人が多かったです。南の端の鹿児島の高校が優勝したといって北の端でこれだけ騒ぐということは、やはり「本州」に対する「九州」という意識が強く存在するということでしょーかねぇ。


結局、ふたりとも、おねーさんしか見ていなかったようです。みなさんも過剰な期待をもって北九州にきてくれっち。以上、小倉からでした。
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