死者をめぐるふたつのエピソード

元チーフのフィレイとその弟のイフノア。二人の兄弟は96年と97年に相次いで亡くなった。彼らに関する短いエピソードをふたつ。

【イフノアのエピソード】

村のはずれに一本の枯れた大木があった。その木はアカマの木と呼ばれていた。かつてはこの木が立っていた場所が村の中心だったという。地震とサイクロンのために村の地形が変わり、いつのまにか海が侵食し、村はさらに奥に移動した。

ある日、すでに波に洗われて樹皮もはがれた巨大な枯木を指さして、イフノアは言った。「私はまだ古い村があったころに、あの木の下で生まれた。もしよければあそこで私と母が一緒に立っている写真をとってもらえないだろうか」。

ぼくは、年老いた母と息子が、海の中に残された巨木の脇に小さくよりそうように立っている写真をとった。

イフノアが死んだ年、その巨木は倒れた。イフノアの母は息子の思い出を抱きながら今も生きている。

【フィレイのエピソード】

村では偉大な人物が亡くなると。新しく生まれた子供にその名前をつける。村には元チーフの名をもらった8人のジョン=フィレイがいる。

フィレイの妻エミリーは、夫が死んだあと、男の赤ちゃんを養子にした。そしてその子にもジョン=フィレイと名づけた。エミリーが生んだ7人の子供たちはすでに大きくなっている。しかし彼らとは別に、エミリーは小さなフィレイを特にかわいがる。

「昔はフィレイは大きかったけど、今ではこんなに小さくなって・・・。でも、食いしん坊なのは、昔と変わらないわね」愛する夫の名をよびながら、子供をあやすエミリーの姿はどこか官能的である。

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