タイムトラベラー

村から首都のホニアラに帰ってくると、すでに日本に戻ったような気がする。ホニアラには何でもある。電気もガスも水道も、電話もインターネットも、レストランもホテルも病院も、車も道路もお店も。

たしかに日本からいきなりホニアラについた観光客は、この街が一国の首都であることに驚くだろう。日本で言えば、やっと普通電車がとまるくらいの田舎の駅前にもかなわない貧弱な町並みである。しかも穴ぼこだらけの道路を素足の人々が往来している。

しかし、それでもよくみれば一通りのものはそろっている。ホニアラの町には貨幣経済の雛型がある、社会制度も近代西洋のものだ。規模は小さくてもわれわれと同じ世界だ。戸籍もなくお金も要らない村の生活とは根本的に違う。

ホニアラと日本の差よりも、ホニアラと村とのソロモン国内の差のほうがはるかに大きい。

村にいると日本の縄文時代の生活をしばしば想像する。海のものや山のものを獲りながら日々を暮らす狩猟採集生活。もし、日本の縄文時代にいきなり近代文明の品々が入ってきたら・・・、たぶん、それはまさしく現在のソロモンの村の様態だろう。

それにくらべてホニアラの街は、いくらズタズタしていても、せいぜい戦争直後の日本かな、といった風情である。少なくとも明治維新よりは遡らないだろう。

日本と首都との差は100年、かたや村との差は2000年。ソロモン人たちに明確な自覚はないのだろうけど、これだけ違った世界をいったり来たりしながら生きているわけだから、彼らは一種のタイムトラベラーといっていいかもしれない。

なんてことを、帰りのシンガポールエアに乗りながら考えていた。シンガポールエアの飛行機は全席に液晶モニターがつけられ、20チャンネルの映画と、ゲームが楽しめる。それだけじゃない、ゲームパッドは電話の受話器も兼ねていて、カードを使えば飛行機の中から電話がかけられるのだ。通話料は世界中どこでも1分で約1000円。

これって今の日本よりどのくらい未来なんだろ。5年?10年?でも未来って、なんだか・・・たいくつね。

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