メタ問題

[KOK 0097]

25 Feb 1999


前回の「こくら日記」は、なぜか旧帝大関係者のすばやい反応が目立ちました。受験生時代に形成された入試問題コンプレックスは、その後の人生に複雑な影を落としているのかもしれません。

(京大研究員のYさん)
あはははははは。これ、すっげえおもしろい。なんかよくわかる。(ここのわかるはひらがなね。)

(北大助教授のSさん)
こんなおもろい話があるんですね!一人っきりの研究室で、思わず、爆笑してしまいました。

国語問題必勝法ですな。

清水義範の「国語問題必勝法」はパスティッシュ(模倣)文学をこえ、現実そのものになってしまっているということでしょうか。現実がパロディなのか、パロディが現実なのか。興味深い問題です。

(京大博士課程のTさん)
入試が得意だったわたしが教えてあげましょう.これは×です.

たけかわさんの文章の全文をみていないので絶対とはいえませんが,これは『この文章の主題は「サザエ」と「美や超自然的な事象」と「人類学(の文化相対主義の限界)」のうちどれか』という問題なのだと思います.そして国語の問題としてはこの答えは「人類学(の文化相対主義の限界)」に決まっていて,だから×なのです.

「最大の」とついているのは,サザエは関心事ではない,とはいいきれず,予備校などが問題の不備を指摘したときにちゃんと言い抜けられるようにという配慮です.

(東大助手のNさん)
現代国語の問題というのは,原文の著者ではなくて出題者のいいたいことを読みとることをその本旨としています。だから,「著者もわからないようなこと」を問うことが普通になされます。

ぼくは,中学生時分,現代国語の中間試験問題で,北杜夫氏の小説の一節の主旨が「次のうちどれか」という形で問われたのに対して,AとCの両方だと思うから出題がおかしい,と教師に文句をつけ,著者に返信はがき同封で問い合わせた結果の「両方です」という証拠をもって談判にいった経験があるのですが,「問題に答えることは出題者の意図に答えることだ」と喝破され,それもそうかと納得して引き下がってきました。

ぼくの読みでは,その例題の模範解答は×でしょう。出題者の意図は,「著者の(この文章での)最大の関心事は?」というところにあるからです。

きゃー。ショック。せっかく「著者にとって最大の関心事は、美や超自然的な事象である」という言説を、受け入れる心の準備ができたのに・・。×だなんて。だれか私の最大の関心事を教えてください。

(北九大卒業生のIさん)
小倉日記、毎回興味深く拝見しています。この前の試験問題についてのお話は、自分も高校の頃そんなことを考え国語の先生に突っかかった覚えがあります。

その時、先生は「色んな解釈が出きるけど、一番一般的なもの、多くの人がそうだと考えられるもの、それが答えとされているのよ。他人がどうものを考えるのか理解するための力を養うことが国語の目的なのだから」そうおっしゃっていたように思います。

(北九大現役生のAさん)
メールを読んで向田邦子の本を思い出しました。正確にいうと、弟が書いた文章ですが。それにも、似たような話が書いてありました。

彼が書いた文章が試験問題に採用されて、問題で解答の選択肢に彼の気持ちにあうようなものがなかったという話。

(元京大生を配偶者にもつSさん)
今回のメールは超興味深いです。続きを楽しみにしています。

さて、実はここまでは単なる前ふりです。

さきほど、北九州大学人間関係学科の前期日程の小論文の試験が終了したところです。誰が作成に参加したかは極秘ですのでいえませんが、今年の入試問題は以下のようなものでした。

まず、「よい論述試験問題をつくるためにはどのようなことに注意すべきか」について述べてある英文を読ませその要約をかいてもらいます。(72点)そして・・・。

問2 この英文の観点にそって、あなた自身で人間関係学科前期個別学力検査 の小論文の問題例を作りなさい。(8点)

問3 問2で作ったあなたの問題が、英文で述べられている「よい論述試験」 の観点から論述試験問題としていかに妥当であるかを、その問題で受験 生の何を評価するかを含め、800字以内で論述しなさい。(120点)

小論文の問題というのは実に難しくて、あまりオーソドックスなテーマで問題を作ると、あらかじめ準備してきたような似通った解答が続出し、受験倍率によっては、そういう解答が合格ラインにひしめく結果になります。

採点者としてはある程度オリジナリティを評価したいのですが、受験生にとってはオリジナリティをだすのはかえってリスキーな賭になり、おそらく予備校などでは無難な解答をすべしと指導しているはずです。

できるだけ受験生が模範解答を予測できないようなテーマで、なおかつ受験生の能力や問題意識をはかれるような小論文。その苦肉の策が、上記の「メタ問題」となったわけです。これは一回しか使えない裏技かもしれません。

先ほど採点基準を決めるために、何枚かの答案に目を通しました。とまどいがありありと浮かんでくるような解答もありました。こういう問題に図太く解答できる受験生は、よほど柔軟で機敏かどこかひねくれているかのどちらかです。採点作業は毎年とっても大変ですが、今年はすこし楽しめるような気がします。

そのうえ、出来のいい解答を使いまわせば、とうぶん小論文の出題に困らないので一石二鳥です。なんてこれは冗談です。

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Takekawa Daisuke