アタックの秋2

[KOK 0121]

19 Nov 1999


アタックについて詳しくは「こくら日記57・びわアタック」を参考にしていただきたい。要約すると「あらゆる生物は自然界に生息するというただ一点において、なんぴとによっても、その生命を所有されない」という思想的背景をもとに構築された、「自然界に生息しているものを、摂食を目的として、捕獲または採集する行為」をさす概念である。

それは、ある突拍子もなく、よく晴れた秋の日であった。そんな日にゼミがあること自体、間違っているといわねばなるまい。ごく当然ようにゼミは急遽、野外で行われることに決定された。北九州大学の近くには、いただきに巨大な平和観音が立っている鷲峰山という小高い山がある。かくして、遅刻してくる不逞学生には、地図を記した置き手紙を残し、竹川ゼミは移動を開始したのである。

物語は、その途中の山道で「かつてここで芋掘りをしていたなにがしが銅銭を発見した」というような内容が記された看板を発見した所からはじまる・・・。

その看板を読んだゼミ生Aが「こんな山の中で芋掘りをする人がいるんですかねぇ?」といぶかしげに尋ねる。ぼくは一瞬、彼がなにを不信に思うのか理解できなかった。が、持ち前の鋭い洞察力により次の瞬間、彼のイメージしている芋掘りが「畑でツルを引っ張りながらサツマイモを掘ること」であるのに気づき、こう教授した「ここでいう所の芋掘りとは、ヤムイモすなわち自然薯掘りのことを指すのだよ」

「自然薯とは・・・」といいながらぼくは、近くにツル状になっているハート形の葉を指さした。「ここについている、粒状のものはムカゴといって、自然薯はイモだけじゃなくてこのムカゴによっても栄養体繁殖をする」そしてこう付け加えた「むろんこのムカゴも食べることができる、それではムカゴ採集実習を始めよう」実践に即したすばらしい講義といえよう。

「イモは・・・自然薯はとれないのでしょうか」おずおずと尋ねるゼミ生B。「とれる。しかしそれには、すばらしく茂ったツルを探すことと、さらにイモを掘り出すために、大胆かつ繊細に穴を掘りつづけるという、非常な忍耐が要求される」。

「このツルなどいかがでしょうか」うむ、悪くない。しかも場所は崖沿いだ、うまく掘れば取り出せるかも。「よろしい、ムカゴ実習はここまでにして、自然薯実習を開始する、今日のゼミ発表者はイモを掘っている間にレジュメを読むこと」臨機応変なのである。

かくして道具もないのに無謀かつ強引に自然薯掘りは開始されたのである。結果的にわれわれは、2限目と昼休みと3限目いっぱいを費やして、長さ約50センチメートルほどの自然薯を掘り出すのに成功したのである。その夜に「とろろ飯実習」がおこなれたことは言うまでもない。

しかし、ここまではまだ物語の序章に過ぎない。

その次の日曜。あまりの自然薯のうまさと、その採集に絶好の季節であることに、気をよくしたぼくは、家族で福知山山系の鱒淵ダムの上流に偵察にでかけた。その小さな沢は以前から目を付けていた場所でもある。

あくまで偵察のつもりで行ったのであるが、その沢に着いたとたんに、つなぎの作業服を身にまとったいかにも怪しい3人組の男たちと遭遇することになる。彼らは長い鉄の先に小さなスコップのようなものがついた武器をそれぞれ持っている。

「こんにちは・・・自然薯ですか?」「そうだよ」ひとりがぶっきらぼうに答える。「そのスコップすごいですね、どこに売っているんですか」「こんなものナフコ(大型日曜大工・園芸店)にいくらでもおいてあるよ」「えっ。そうなんですか」しめしめ、それは良いことを聞いた。

「だけど、どの辺に自然薯ってあるんですか?」ちょっと質問のしかたが悪かった。やや警戒する男たち。「あっ、いえ自然薯ってのは、あの・・やっぱり日当たりが良いところに多いんでしょうかね」「まあ、日当たりがいいほうが太いけどね・・・」ぼそりと。

「やっぱり沢筋ですか・・・?」小さな緊張が走る。先頭の男がいう「まあ、どこでもあるけどね。ちょっと素人は見つけきらんよ。素人には無理。見つけても掘りきらん」完璧なシャットアウト。まちがいない、かなり熟達したヤムアタッカーである。「ああ、そうなんですかぁ、やっぱり難しいですよねぇ」とこちらも気のないふり。ぼくとてアタッカーの端くれである、それだけ聞けば十分だ。

結局その日は、沢筋を登って子供たちとマルハフユイチゴをたくさん採取し(これはその後とてもおいしいジャムになった。)、アケビ(ムベ)の生えている場所を見つけ、スダジイとムカゴを集めて帰った。途中、男たちが掘った真新しい自然薯の穴と、まだ採集されていないよさげなツルを、何ヶ所も確認したことは言うまでもない。

さて、物語の最後はシイの実である。

北九州といえども本州よりはよほど照葉樹林が豊かである。このあたりには「香椎」や「志井」という地名もあるくらいである、シイの木がけっこうはえているという感触は得ていた。しかし、ぜひとも大学近辺に手頃なシイ・スポットがほしかった。

先週は昼飯を食べにいきがてら、近所の神社の木々を見て回った。

そのかいあって絶好のマイ・シイ・スポットを発見したのである。一ヶ所は、○○神社(アタック界の鉄則として残念ながら場所は教えられない)。ここのシイは大きくて艶がよい。そしてもう一ヶ所は墓地。ここは場所が場所だけに、ほかのアタッカーにねらわれないだけでなく、下がコンクリートになっているため、虫食いがほとんどなく、きわめて優れた採集地といえる。

両方ともツブラジイ。ツブラジイはスダジイよりも甘くてうまい。しかし不思議なことに、実の大きさや味にはずいぶん木によって個体差がある。ときどきスダジイと中間的な形態の実もある。今回見つけた神社の実はすべて、墓地の実よりひとまわりほど大きかった。黒々としていかにもいい感じだ。

しかし実際に食べくらべてみたところ、小粒の墓地の実の方が香ばしくてうまかった。不思議なものである。アタッカーは同時にグルメでなければならない。ともかくここは、墓地のシイの実を一級品と認定しよう。

一昨日からの冬型気圧配置で、ずいぶん風がふいた。明日あたりはシイの実日和である。

そして、もちろん捲土重来、ヤムアタックも特殊スコップを手に入れての出直しである。来週あたり自然薯実習2を実施する。受講希望者は直接、指導教員まで連絡のこと。単位は2単位、評価は掘った自然薯の長さでおこなう。

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Takekawa Daisuke