政治鍋

[KOK 0141]

19 Jan 2001



今月の28日に北九州市の市議会選挙がある。夏の参院選の前哨戦ともいわれている。「八幡製鉄所」にはじまり「若戸大橋」「関門トンネル」などデカイものをつくる執着は他に類を見ず、20世紀も終わりを告げたというのに「ドーム競輪場」「北九州大学若松キャンパス」「新北九州空港」などなど「はこもの」造りの伝統が脈々とうけつがれている街の選挙である。一方で北九州市は、かつての繁栄の名残からか、全国一高齢化がすすんでいる都市としても知られている。

「開発か福祉か」こんどの選挙はそのあたりが争点なのかというと、そうでもないらしい。選挙活動の様子をみているかぎり、なにをいっても不況の現実の前には迫力が出ず、どうもぱっとしない感じ。

政治はけっして好きではない。もちろん政治とは、腹が減れば飯を食うくらいに、人間にとって日常的な文化行為で、好きとか嫌いとかうレベルの問題ではないこともよくわかっている。

だけど、どうにも好きになれないのが政治の党派性である。政党政治は民主主義の宿命なのだかどうか知らないが、なにかにつけ徒党を組むというやつは、生理的にしっくりこない。これは一匹狼の血だろうか。いやこれは虚勢だ、孤立の無力さは小学校のころからいたいほど自覚している。

投票にはこまめにいっているが、特段応援している政党もない。選挙公報を見ながら候補者の意見を読んで、言ってることが比較的良さそうな人の名前を投票所まで一生懸覚えて用紙に書いている。私のこれまでの投票行動をみるとやっぱり無党派としか表現のしようがない。けれど雨が降ったら投票に行かないような軟弱な無党派ではない。ちゃんと予習をする硬派の無党派だ。ただ、ひとつだけ残念なことに、私が入れた候補が当選したことは過去にほとんどない。

そんな、私が、いつの間にやら政治に巻き込まれてしまった。政治にはなるべく関わらないようにしていままで生きてきたのだけど(うそ・・かな)、私が父母の会の会長をしている幼稚園のお父さんの一人が、市会議員に立候補する事になったのだ。実は、彼の父親も元市会議員で、いわゆる二世議員である。彼には何度もあったことがあるが、まあ優しくてなかなかいい感じの男である。

しかし事件は4日ほど前、突然の電話に始まる。私立幼稚園PTA連合からの依頼で、幼稚園児名簿をもとに父母の会から連合の推薦議員として彼への投票を、電話で呼びかけてほしいというのである。急な話である。父母の会としてそれをするには、ほかの委員の確認をとる時間が必要である。しかし連合会としては、すでに他の幼稚園にも同様の依頼をしており、候補者本人の子供がが通う幼稚園が足並みをくずすわけにはいかないという。

しかも手際がいいことに、すでに父母の会の実働部隊である執行部(5名のお母さん)には了承をとり準備すすめているというのである。結局、煮え切らない気持ちを残しながら、会長としてこの「電話作戦」を認めてしまった。

こんなことは、この国ではごくありふれた風景で、大した問題ではないのかもしれない。私が悩んでいるほど、電話を受けた人は深く考えていないのかもしれない。それでも、私には違和感があった。これでいいんだろうか、これがほんとの「政治」なのか。なにかちょっといやな感じがする。

翌日、私は、会長の名前で以下のような手紙を全園の父兄に出した。


【政治鍋のお誘い】

帰国したら必ずまたやりましょうねと約束しながら、ながらくご無沙汰になっておりました「オヤジの飲み会(本当はこういう名称にはちょっと抵抗があるのだけど)」です。もたもたしているうちにいつのまにか21世紀になってしまいました。たしか新世紀には自動車がみんな宙に浮いていたはずなのだけど、残念ながら今のところ1ミリも浮く気配がありません。子供の頃に夢見た、光り輝く未来は幻だったのでしょうか。今の子供たちはどんな未来を感じているのでしょうか。

さて、鍋の話をする前に、ひとこと書いておかなくてはならないことがあります。

それは小倉南区PTA連合会からの依頼で、父母の会会員のみなさまのお宅に、市議選の推薦議員に関する電話をおかけしたことについてです。

たしかに個人的には、父母の会のメンバー、すなわち同じ幼稚園のお父さんから市議会選に立候補する人が出るということは、すばらしいことであり、ぜひ応援したいという気持ちはあります。

しかしさらに私見を言えば、組織を利用した電話戦術というやり方は時代錯誤だろうし、票獲得という面ではむしろ逆効果だという気がします。これ自体、昨今、社会問題になっているさまざまな政治腐敗と根は共通するところがありますし、園の名簿を利用することについて、プライバシーの観点から不快に感じられた方も多かったと思います。

しかも、こうした運動は、他の園も含めて長年慣例化していたことのようで、今回もあらかじめ事前の確認のないまま急に依頼されたものであり、父母の会として対応するには十分な論議と手続きをとっていないこともみとめます。

むろん、会長としての説明責任を逃れるつもりはありません。ご批判は十分に受ける覚悟です。必要であればご迷惑をおかけしたことに対し、お詫びをしなければならないだろうと考えています。

そこで今回の飲み会では、会長の対応についてのご批判も含めて、「政治」を酒の肴にしたいと考えてます。会長と個人の二つの立場に引き裂かれた(なんていうとすこし大げさだけど)私の気持ちもご理解いただいた上で、いろいろなご意見を持っている方に参加していただきたいと思います。政治になにを期待するのか。今の政治のどこに不満を感じているのか。顔の見えないタテマエの意見じゃなくて、生活の実感に根ざした忌憚ない意見を交わしましょう。ふだんは政治に振り回されてばかりのわれわれが、政治を振り回せるのは残念ながら選挙のときだけです。せいぜい選挙をネタに酒を楽しませてもらいましょう。

むろん、立候補をされているお父さんには、投票前でお忙しいでしょうが、メンバーの一人として、ぜひともその場にご参加いただけるように依頼したいと考えております。

さらに、せっかくの企画ですので、この文章をこのままマスコミにも流して取材の誘いをかけてみましょう。ほかの候補者で、もしきていただける方があれば、その方もお呼びしましょうか。私もこのごろ仕事が忙しくてばたばたしており、どこまで手配できるかわかりませんが、どうせやるなら面白く鍋をたのしみたいと考えています。

いうまでもありませんが、政治の話がつまらなくなったら、いつもの(親)バカ話にもどりましょう。というわけで急な話で申し訳ありませんが、たくさんのみなさまのご参加をお待ちしております。


「政治鍋」1月24日(水曜日)小倉南区コミュニティセンターにて決行。

ほかの候補者の関係者で、これに乗ってもいいという人があれば、なんでも放りこんでほしい。北九州周辺のマスコミ関係者で、おいしいにおいを感じた人は、適当に味付けしてお食べあれ。私ができるのは、昆布でダシをきちんと取ったグラグラの鍋を用意するするところまである。お客さんが何人来てくれるかは、いつもながら未知数。最悪、私と候補者以外に具はなかったりする。

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