23 Jul 2002
魚を突く
■目の前を灰色の影がよこぎる。その瞬間、ひきしぼったゴムの反動で強く前方にときはなたれる銀色のモリ。飛び散る鱗のむこうで身もだえする黒鯛(チヌ)。
■それはわずか一刹那のできごとなのだ。この広い海のなかでたまたまこいつと私が邂逅した、その一刹那のできごとなのだ。
■「いまここ」に、私の目の前に、モリに突き刺さったこいつがいる。ここでは必然ではなく偶然が時間を支配する。
■どんなに技量をあげても、最後の最後は偶然の巡り合わせに頼るしかない。それが狩猟だ。
■「いつでもどこでも」の実現をひたすら追い求める近代社会。出会いに必然を望み、いつも漫然とつながっていたい人々。そのあくなき欲望のあまり「いまここ」にあることの奇跡の喜びすら忘れてしまった日常。
■「いま」は悠久の時間のなかで一度しかおきないし、「ここ」は無限の宇宙のなかでただ一ヶ所しかないというのに。
ついた魚
■西表での欲求不満を解消するために近くの海に遊びに行った。浜の木々を集めて突いた魚や貝を焼いた。「いつでもどこでも」スーパーで売っている魚や貝とは違う。「いまここ」でわたしが殺した魚だ。かつて、人が生きるとは、こんないきあたりばったりな幻の日々の連続だったにちがいない。
浜
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