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【狂137】わたしたちとキノコ文化

96/02/25

ニライタケは南米原産のキノコである。こうした精神展開性キノコは、現地のアズティック語でテオナナカトル(神の肉)とよばれ、ふるくインカ帝国の時代から宗教儀式に用いられ続けてきた。人類にとって不幸なことに、生来野蛮なヨーロッパ人が、アメリカ大陸に花開いた数々の文化を破壊し尽くしてしまった現在においては、当時のキノコ文化がいったいどれほど奥深いものであったかは、ほとんど知ることはできない。わずかに、土着の呪術・宗教儀式として、インディオのあいだに細々と伝え残されてきたものを見るのみである。

死のおどり このキノコ文化が、ふたたび世界の注目をあびはじめたのは、1957年に R.G.Wasson 夫妻が雑誌「ライフ」に書いた記事による。かれらはメキシコの女性インディオが主催する宗教儀式に参加し、そこでえた強烈な幻覚体験を発表した。この記事は世界のカウンターカルチャーに大きな影響を与えた。マジックマッシュルームは、カスタネダの一連の著作で有名になったペヨーテ(烏羽玉サボテン)とともに、60年代のヒッピームーヴメントを代表するナチュラルドラッグとして広く知られるようになったのである。

その後、1973年に日本でも横山和正博士らによってヒカゲシビレタケという強力な精神展開性キノコが発見された。70年代後半にはアメリカでこれらの精神展開性キノコの栽培法が確立され、こうした技術は、いご改良を繰り返しながら現在にいたっている。また、近年では東南アジアの各地でこれらのキノコを食べさせるツアーが急増している。

だがこれまで、こうしたキノコは、一部の愛好家だけが楽しむものであり、社会的な認知をうけることなく、どちらかというと秘密めいた「きわもの」あつかいをされてきた。キノコの幻覚成分シロシビンは、比較的不安定な物質であるため、ほかのドラッグとくらべて流通させにくかったという理由もある。

しかし90年代にはいって、キノコ文化はじわじわと広がりをみせながら、あらたな局面をむかえようとしている。複数の書物や口コミによるキノコ栽培法の普及が、そのひとつである(キノコのエキスに脳をあやつられた今回の特集も、まさにこの一環であることはいうまでもない)。そしてもうひとつ、日本の南の島で大量の精神展開性キノコが帰化しているという有力な情報がある。これについてはおそらく、このキノコの子実体が発生する今年の夏あたりに大きな動きがあるのではないかと思われる。

すでに東京のある宗教団体では、こうしたキノコを布教に利用しているという話もきいた。また、精神展開性キノコの流通に暴力団がからんだばあいにそなえて、警察はすでにキノコの使用をマークしはじめているらしい。精製されたシロシビンが麻薬取締法の対象になってしまった経緯からみて、こんご、なんらかの社会的トラブルを口実にして、キノコ自体も違法にされてしまう可能性が強い。

いうまでもないが、政府による麻薬指定は精神展開性キノコになんらかの危険があるからされるわけではない。違法性と危険性はむしろまったく別の次元の問題である。たとえば、習慣性もすくなく安全なドラッグであるとされているマリファナ(大麻)は、日本では厳重に禁止され、大麻所持者というだけで社会生命を抹殺される。さらに、なにも知らない一般市民は「よくわからないが、なんだかとっても恐ろしいものである」と信じさせられている。マスメディアの情報が政府のいいように統制されている日本で、ハッシシとヘロインとシャブのちがいを正しくいえる人がいったいどのくらいいるだろうか?

これら嗜好品にたいする日本の政府の対応は、一貫性がなく、まったくのご都合主義であるというほかない。たとえば医学的に重度な中毒や神経障害・発ガン性が指摘されているニコチン酸に関しては、そこかしこに無人販売機が設置されており、テレビによって流される洗脳まがいのイメージ広告のスポット数の多さは世界に類を見ない。エチルアルコールに関しても同様である。

これは日本政府がこうした習慣性の強いドラッグを、有力な国家予算の財源としてしかみていないということに根本的な原因がある。たとえば、日本では酒の自家醸造を、酒税法の観点(けっして薬物法ではない)から禁止している。作りたての酒は本当にうまい、まさに酒文化のすそのを広げる神聖な行為である。ウイスキーや(まずい)ビールの宣伝にこれほどの金がかけられている日本において、文化破壊としかいいようがない自家醸造にたいする理不尽な弾圧には、人類の嗜好品文化たいする国家の無理解が露骨にあられている。

ついでだからもうすこしいおう。現在暴力団の重要な収入源であり、もっとも危険なドラッグのひとつあるとされている覚醒剤(メタンフェタミン)は、東京帝大の長井長義博士によってはじめて合成され、第二次世界大戦中はヒロポンという商品名で、軍部を中心に積極的に利用されていた。こうした覚醒剤は疲れをわすれさせ24時間たたかえる自己完結的な多幸感をうみだす。ヒロポンは、戦後の復興にも大いに利用され1951年「覚せい剤取締法」が施行されるまで、実質的に野放しにされた。「こんなに暑けりゃヒロポンでもなきゃ、やってられないね」という昭和天皇の発言は、当時、覚醒剤がいかにひろくでまわっていたかを如実に表している(なお、昭和天皇は神をやめて人間になってしまったが、さいわいなことに人間をやめるところまではいかなかったらしい)。

覚醒剤は人間を仕事(とくに単純作業)にのめり込ませる作用を持つ、きわめて悲しいアップ系ドラッグである。不思議なことに世界のほかの地域に較べて、日本では覚醒剤が不法ドラッグとしてきわめて高い割合で流通している。市販されているスタミナドリンクの人気もその流れをくむことはいうまでもない(あれも相当あぶないよね)。こうした危険なドラッグを、日本政府は、戦争や復興など都合のいい時には合法化し無節操に利用してきたのだ。

はなしを戻す。これら野蛮なドラッグに較べればキノコは実にかわいいドラッグである。しかも、その効果は崇高で、世界が美しく輝き、宇宙にたいして限りなくやさしくなれるという、そうそう LOVE & PIECE ですね  (・_・)v

それでも、節操のない日本政府が精神展開性キノコを非合法化する口実はいくらでもある。宗教家がキノコ頭になった人をだましたり、キノコを服用している人がおもわぬ事故を起したり、悪質な流通業者による金銭的なトラブルや、自生地に興味本意で多数の人が集まることによる苦情、などなど。

また、まったくなにも知らない人や、中途半端な気持ちでどこか不安を残した状態の人が精神展開性キノコを服用すると悪い結果になりやすい。心理学的な実験下での事例と、野生種採取時の事故によるキノコ中毒の事例を比較すると、同じものを服用したとは思えないほど個人の体験に違いが見れられる。当然、後者でさまざまなトラブルが発生している。

狂人新聞社と日本精神展開性菌類研究所はこうした現状をみるにつけ「ぜひとも確固としたキノコ文化を創設せねばならない」という結論に達したのである。その合意のもとに今回の企画がたてられた。

インディオの宗教者たちも、キノコと仲良くなるために、慎重なセッティング(環境のありかた)とセット(心のありかた)を準備した。これは千年以上もの長きにわたって継承されつづけてきたきわめて高度な文化である。

栄西が日本に最初のお茶をもたらし、室町時代に京都ではぐくまれた東山文化が、村田珠光・武野紹鴎という優れたグルをうみ、ついに千利休が侘茶(茶の道)を完成させるまでに350年の月日が必要であった。

真理は万人によって求められることを自ら欲し、芸術は万人によって愛されることを自ら望む。七色キノコを趣味人の秘教とすることなく、不断の布教と正しい啓蒙によって、あまねく万人に伝えることが、後世の人類にたいする文化的貢献であると信じるものである

※2002/5/7に、「麻薬、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令の一部を改正する政令」が交付され、同年6/6から「マジックマッシュルーム」が麻薬原料植物として法規制されることが決定しました。したがって現在日本国内ではニライタケを所持・栽培・採集・節食することはできません。


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