この酒に注目だ!

[KOK 0050]

13 May 1997


日曜日、鱒淵ダムでカヌーをこいだあと、八幡の「ひらしま酒店」にいった。三井の寿の杜氏、山下修司氏に会うためである。

山下氏にはひょんなことで知り合った。ふだんから私が日本酒好きであることを知っている出版者の方が、おもしろい杜氏さんがいるといって紹介してくれたのだ。なんでも、北九州大学在学中に日本酒に目覚め、卒業後に石川県の「菊姫」で修行をして、最近になって福岡県の「三井の寿」というお酒を造っている蔵に、杜氏として職を得たのだという。

さっそく電話で連絡した。話してみると、予想どおり、なかなか魅力的な人であった。酒造りの仕事がない夏の間は、中国、チベット、モンゴルのあたりをうろうろするのが好きなのだという。人類学の私の仕事にも、とても興味があるという。


そんなこんなで、「一度お会いしたいですね」なんて話をして、はじめてお会いしたのが先週の日曜日であった。たまたま、「ひらしま酒店」で北九州美酒研究会という集まりがあり、それに参加するために北九州に来るというのである。

今回の北九州美酒研究会のテーマは、「酒母」だった。速醸モト、高温糖化モト、山廃モトでは酒の質がどう変わるか、そんな勉強会と、利き酒会と、お食事である。酒店ご子息の平島さんをはじめ、あつまったメンバーは20代中心の楽しい人ばかりで、日本酒の新しいムーブメントを肌で感じる晩であった。

そして、それ以上におどろいたのは、「三井の寿」の蔵人集団と、かれらが作りあげたお酒だ。どういういきさつかは詳しく聞けなかったのだが、山下氏を中心に、麹をつくる人も、酒母をつくる人も、みな若手だ。酒造りの仕事を始めてまだ一年という人もいた。その彼らが、実にすごい酒を造っているのである。

これは、けっして、贔屓目でいっているのではない。酒の味に関しては、私は常に冷静である。できあがったばかりの大吟醸をいただいた。実質かれらの手によるはじめての酒造りである。それが、うまいのである。米の味を非常によく引き出した、濃厚で芳醇な吟醸酒であった。ちょっと前にはやった端麗辛口とは路線を異にするが、間違いなく最上レベルの吟醸酒である。話ができすぎてて、ちょっと信じられない感じだ。

山下氏は、品評会向けに意図してこの味をつくったという。なかなかいえる言葉ではない。頼もしい限りである。すべての酒好き同志に告ぐ、今年の「三井の寿」はすごい。そして、今後、彼がどういう味を目指すのか、熱く注目したい。

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Takekawa Daisuke