アレスト

[KOK 0153]

18 Apr 2001


ロンドン・パディントン発オックスフォード行きの電車に乗っていると、途中のレディング駅から若者たちが乗り込んできた。ちょっと騒がしい連中だなと思って見ていたら、客車の中で急に大声で歌い出した。

大学生にしてはすこし幼い感じだ。高校生くらいだろうか。10人ほどいる。オックスフォード万歳みたいなことをいってみたり、唐突に童謡の合唱をはじめたりする。やがて終点がちかづくにつれ、ほかの客が降りていき、その車両には、われわれと若者だけという感じになってしまった。

子供たちは少しおびえていたが、大声で歌をがなるだけで、特に不穏な感じではない。みな顔が赤いから酒でも飲んでいるのだろう。ぼくはここは外国なのだから、こういうこともあるだろうなというスタンスだ。いずれにせよ、台湾のバスの運転手がいきなり大ボリュームで演歌をかけたり、マレーシアの道ばたで突然コーランの響きとともにお祈りが始まったり、韓国の市場で喧嘩が始まったりと、まあそんなたぐいのことだろうと勝手に納得していた。ただ、パブじゃあるまいし、電車の中というのはめずらしいなという気はした。

列車が終点のオックスフォードについた。若者たちに続いて降りるとホームには蛍光のジャケットをつけた物々しい警官隊が待っていた。何かあったらしい。家は駅の裏にあるので、裏出口から外に出ようとすると雰囲気が変だ。

駅の裏口にはバスが横付けされており、くだんの若者たちと、ほかの車両にいたとおぼしきその仲間たち40人くらいが警官隊に誘導されている。バスはふつうの路線バスだが警察がチャーターしたらしい。われわれがとまどっていると一人の警察官が「どうぞ行ってください」と先導してくれた。横目で見ると、列車でさわいでいた若者たちは次々にバスに乗せられている。写真を撮っている警察官もいる。

電車に乗っているあいだに先回りして手配していたのだろう。それにしても手際がよい。あっというまに若者たちを全員乗せ終わるとパトカーが先導してパスは走り出した。あとは何事もなかったかのようないつもの駅。

彼らはいったいなにをしたのだろう。これが世に言うフーリガンというやつなのだろうか。オーウェルの動物農場を思い出して、ちょっと背中のあたりがゾクッとした。

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Takekawa Daisuke